-6-
「……あなたは、残酷な人だ……」
やっとそれだけ言って、伯爵を見た。
「……死の決断すらも、私にゆだねようとするなど……」
伯爵は見つめる私の視線をそらすこともなく、ただあまりに美しいその瞳で見返してきただけだった。
私は、鞘からすらりと剣を抜き、伯爵につきつけた。
それでも、伯爵は私を静かな眼差しで見つめたまま、身じろぎさえすることもなかった。
「……あなたを、殺します……」
そう告げてもなお、伯爵は何も言うことはなかった。
(ラミアのためにも……)
私は心を決め、目を閉じて、伯爵を刺そうとした。
剣をつかみ直し、伯爵にまっすぐに向けた。
殺すつもりだった。
だが、私には、刺せなかった。
抵抗をすることもなく、黙って殺されるのを待っているような人を刺せるはずもなかった。
私は剣を下ろし、
「剣を、取ってください…伯爵」
と、促した。
伯爵が無言でうなづいて、自分の剣を取った。
「ドラキュラ伯爵、あなたに決闘を申し出ます……勝敗は決着がつくまで、どちらか一方が倒れるまで加減なしで行います……」
決闘のルールを話した私に、
「わかった……」
と、だけ伯爵は応えた。
私たちは城の外へ出ると、剣をかまえて互いに見つめ合った――。
……いくら泣いても泣いても、気がおさまることはなかった。
2人のことを考えれば考えるほど、悪い方にばかり想像は働いた。
(もう、オズマがラズルを刺してしまっているかもしれない……どうしよう……もしそんなことになっていたら、私のせい……私が、あんなことを話したから……だから……。どうしよう……どうしよう……私のせいで、2人がどうかなるようなことがあったら……)
私には、どうしていいのかわからなかった。
魔界に行けない自分が歯がゆくて、苦しくて、いてもたってもいられない気もちだった。
胸の中でふくれ上がる不安に気が狂わんばかりになって、今にも叫び出しそうになって、ようやく頭を抱え思いとどまっていた私に、
「ルキア……」
と、呼ぶ声が聞こえた。
うずくまっていた私は、顔を上げた。
「あ……」
窓辺に来ていたその人は、赤い翼を折りたたむと、中へと入ってきた。
「レッドウィングス……なぜ……」
たずねた私に、
「魔界に来て……彼を、助けて……ルキア」
と、彼女は告げた。
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