-5-
私は、ルキアの願いを聞かずに館を出た。
いくらルキアが望んではいないことでも、私には真相を知らずにいることなどはできなかった。
私はわずかに残る魔力を使って、魔界に向かった。
魔界では有名なドラキュラ伯爵の城は、一度も訪れたことはない私でも場所くらいは知っていた。
ふいの訪問にも伯爵はこころよく私を迎え入れてくれた。
いつもながらこの伯爵は、魔ものにあるまじきやさしさを持っていると思う。
こんなにやさしい人が欲望を満たしたいためだけに、魔力を与えるようなまねをしたんだろうか……。
「今日は、なんの用で……」
なにげなくたずねてきた伯爵に、私は口をひらいた。
(聞かなければならない……)
ごくりと唾液を飲み込み、私は切り出した。
「……伯爵、お聞きしたいことがある。あなたはかつて、雨宿りに来た男を愛してしまったという少女に、魔力を授けたようなことはなかったか……」
私の問いに、「えっ……」と、伯爵は口をつぐんだ。
「……あったのか?」
私は、つめ寄った。
「……なぜ、その話を……」
「そうか…やはりあなたが……」
私は腰の剣に手を添えた。
「……伯爵、あなたの命をいただきます……」
「命を……その少女と、何か関係があったのか?」
命をもらうと言っても伯爵は動じることもなく、淡々と私に聞いた。
「ええ…」と、うなづく。
「……私は、その少女を、愛していました……」
「愛して……そうか、ならば私の命を奪うといい……」
深く蒼い瞳で、伯爵は私をじっと見つめて言った。
「……なぜです……」
私は、聞き返した。
「なぜ、あなたは話の真否をたずねるわけでもなく、殺されてもいいなどと……」
「……私の仕業だと思って、来たのだろう……? それなら、自分を信じればいい……」
「……なぜですっ!」
私は叫ぶように、再び同じ言葉をくり返した。
わけもわからずに涙があふれた。
「どうして、泣くのだ…」
あまりにも静かな声音だった。
「伯爵……あなたは、やさしすぎる……」
涙は止まらずに、とめどなくあふれた。
「やさしさは……強く生きるには、足かせになる……」
伯爵は息を吐き、言った。
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