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私は、ルキアの願いを聞かずに館を出た。

いくらルキアが望んではいないことでも、私には真相を知らずにいることなどはできなかった。

私はわずかに残る魔力を使って、魔界に向かった。

魔界では有名なドラキュラ伯爵の城は、一度も訪れたことはない私でも場所くらいは知っていた。

ふいの訪問にも伯爵はこころよく私を迎え入れてくれた。

いつもながらこの伯爵は、魔ものにあるまじきやさしさを持っていると思う。

こんなにやさしい人が欲望を満たしたいためだけに、魔力を与えるようなまねをしたんだろうか……。

「今日は、なんの用で……」

なにげなくたずねてきた伯爵に、私は口をひらいた。

(聞かなければならない……)

ごくりと唾液を飲み込み、私は切り出した。

「……伯爵、お聞きしたいことがある。あなたはかつて、雨宿りに来た男を愛してしまったという少女に、魔力を授けたようなことはなかったか……」

私の問いに、「えっ……」と、伯爵は口をつぐんだ。

「……あったのか?」

私は、つめ寄った。

「……なぜ、その話を……」

「そうか…やはりあなたが……」

私は腰の剣に手を添えた。

「……伯爵、あなたの命をいただきます……」

 

 

「命を……その少女と、何か関係があったのか?」

命をもらうと言っても伯爵は動じることもなく、淡々と私に聞いた。

「ええ…」と、うなづく。

「……私は、その少女を、愛していました……」

「愛して……そうか、ならば私の命を奪うといい……」

深く蒼い瞳で、伯爵は私をじっと見つめて言った。

「……なぜです……」

私は、聞き返した。

「なぜ、あなたは話の真否をたずねるわけでもなく、殺されてもいいなどと……」

「……私の仕業だと思って、来たのだろう……? それなら、自分を信じればいい……」

「……なぜですっ!」

私は叫ぶように、再び同じ言葉をくり返した。

わけもわからずに涙があふれた。

「どうして、泣くのだ…」

あまりにも静かな声音だった。

「伯爵……あなたは、やさしすぎる……」

涙は止まらずに、とめどなくあふれた。

「やさしさは……強く生きるには、足かせになる……」

伯爵は息を吐き、言った。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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