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「ラミアって……誰なの?」

私は高鳴る胸をおさえて、オズマにたずねた。

「ラミアは……私が、かつて愛していた女性だ」

「そう…」

やっぱり、と、思った。聞かなければよかったとも、思った。

言葉をつげなくなって黙り込んでいると、オズマが「……会ったんだ、この前」と、ぽつりと口にした。

「会った……?」

確か、オズマがその人を愛していたのはまだ人間だった頃の話だったと、以前に聞いた気がした。

「ああ……生きて、いた…彼女は……」

オズマがうめくように話した。

「生きて…って、だって…」

「そう…生きてるわけなんか…ない…」

オズマは言って、顔を両手で覆った。

「オズマ……苦しいのなら、話さなくてもいいから……」

「いや…」と、オズマが頭を振る。

「聞いてほしいんだ……ルキアに」

「うん…」と、自分に言い聞かせるようにうなづいた。オズマの話を聞くのは、私自身にも覚悟がいるような気がしていた。

 

 

「ラミアは……かつて、私が王族だった頃に出逢った女性だ……狩りに出かけた先で、雨をしのぐための宿を貸してくれた……。彼女は今日のおまえのように、あたたかなスープを振るまい、暖炉に火を入れて、何にも代えがたいほっとするようなひとときを、私に与えてくれた……」

オズマが言葉を切って、ふっと小さくため息をつく。

「スープは……飲む?」

「うん…ああ、ありがとう…」

オズマの口にスープを流し込む。

飲み込んだオズマが、再び話し始める。

「……彼女と会ったのは、そのただ1日だけだ……だが、私は、彼女を…ラミアを忘れることができなかった……。……その頃の私には婚儀の話が進んでいて、幾度となく舞踏会がひらかれていた……。舞踏会で私に取り入ろうとする姫たちは、誰もが貼りつけたような笑顔をしていて……その度に、私はラミアのやさしい、心からの笑顔を思い出していた……」

スープといっしょに持ってきたパンをひとかけちぎって、オズマに食べさせた。

「……だが、私は結婚をしなければならなかった……。長く病に伏せっていた父王が死に、私は王位を継ぐ必要があった……名君と言われた父王が亡くなったことで、王政は混乱をきわめていた……。……私には、ラミアを妃に迎えることなどはできなかった……いくら、愛していても……。私のわがままを通せるような状況ではなかったのだ……結婚を決めた姫は、半ば政略結婚に近いような形だった……父王もなく王政の乱れた私の国は、取り込むなどたやすいと思われていたのだ……」

「オズマ……」

オズマの赤い瞳にうっすらと涙がたまる。

「……だから、婚儀を済ませたあとに私を魔獣に変えたのは、妃の国のものだと思い込んでいた……国から手っ取り早く私を追い出すための策略だったろうと……だが、ちがったのだ……私を魔獣に変えたのは、もっとちがう相手だった……」

「見つかったの……魔女が?」

「ああ……」

と、オズマがうなづく。

「だ…れ……ま、さ…か…」

「そう……ラミア、だ……」

やっと声をしぼり出したオズマの目から、涙が流れた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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