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「ええ……ねぇラズル、ここへ来て?」
彼が言われるまま寝台へ来る。
「ラズル……あなたに、私の血を吸わせてあげる」
「えっ……」
彼が軽く口をあくと、2本のとがった牙がのぞいた。
「吸って……そして、あとであなたの血も吸わせて」
「おまえが望むなら……」
彼の手に体を抱き寄せられ、首筋に牙をつき立てられる。血を吸われると、全身が麻痺ししびれるようだった。
「あっ……」
と、小さく声をあげると、彼がすっと牙を離した。
「……ルキア、私の血を吸うといい……」
「もう、いいの……?」
「ああ、さぁ……」
と、彼が自分の首を向ける。
青白く蝋細工のようにさえ見える彼の肌に手をかける。唇をそっとあて、それから牙をつき刺した。
「んっ……」
彼がうめき、かすかに顔を仰のかせる。
アルコールのせいか体に血がしみ通るのが早い。私は血を吸うのをやめ、彼をじっと見つめた。
「ルキア……だるい……」
彼が体をぐらりと傾ける。あわてて抱き止めると、首にあいた2つの穴が目に入った。その穴が、目の前でみるみるふさがり跡形もなくなっていく。
「血を、吸われるのはつらい……久しぶりのおまえの血は、とても甘かったが……」
「そう…よかった…」
「ルキア……キスを、してくれないか……」
苦しげに息をつく彼を寝台へ横たえ、口づけた。
「うん……今度からは、こうしてほしい……ヴァンパイア同士なら、口づけで血を与え合うことができるのだから……」
「わかった……ごめんなさい。卑しいマネをしたわ」
「いや、いい……あの時以来だ……おまえの血を吸ったのは……」
あの時……彼が言ったのは、私が血の洗礼を授けられた夜にちがいない。私は、ラズル――彼に血を吸われヴァンパイアとなった。
「あの夜のことを、今でも私は許せないでいる……。おまえを、ヴァンパイアにしてしまうなど……」
「いいの……もう、黙って?」
と、彼の唇に指をあてる。
彼のシャツのボタンをはずし胸をはだけさせて、息苦しそうな首をゆるめる。
「ルキア……おまえは、私を恨んではいないのか……」
「恨んでなんかいないわ。前にも言ったでしょ……私は、あなたと出会えてよかったと思ってる。それにあなたは、私を殺さずに、禁忌を破ってまでも助けてくれた……」
寝台のふちへ腰かけるのを、「こちらへ、来るといい…」と、腕を引かれる。
彼の傍らに寄り添い、はだけた胸に顔を埋めた。
「ルキア……あの時、おまえが死なないでよかった……」
「あの時って……?」
「ん……」と、彼が眠たげに口にする。
その彼の耳に「ねぇ、なに…?」と、唇を寄せると、彼はまつげをしばたかせ口をひらいた。
「あの時……おまえに血の洗礼を授けた時、おまえはなかなか生き返ってはくれなかった……。私は、おまえの体を気づかいこの館に何度も足を運んだ……」
「えっ? じゃあ……ラズルが私を……?」
目覚めた時のことをふいに思い出す。あの時、私は、寝台に寝ていた自分を不思議に思った。あいた窓を閉めようとして目まいを起こし床に倒れたはずの自分が、いつの間にか寝台で毛布までかけて寝ていた。閉めたはずのない窓もきっちりと閉じられていて、私はラズルに血を吸われたことさえも夢だったのかと思ったくらいだった。
「ああ……倒れていたおまえを寝台へ寝かしつけ……目覚めてくれるのを待った……」
あの時の疑問が急に明らかになった。
「ラズル……あなただったのね」
「私はただ、おまえに目覚めてほしかっただけだ……もしおまえが死ぬようなことがあったらと……ここへ来ては、私の血を少しずつ与え続けた……」
「ありがとう……ラズル」
「礼など言うな……私が血を吸いさえしなければ、おまえは人間として生きていくことができたのだ……」
「ううん」と、首を横に振る。
「こんな風にあなたといられるだけでも、私はこれでよかったと思ってる……」
「ルキア……」
彼の手に抱きしめられ、わずかにあいた襟元にキスをされる。
「愛してる……」
「私も……ラズル」
彼の唇が首筋をすべり耳のつけ根へと這い上がる。
「……んっ…ねぇ…、ラズル……まだ、ワインを飲む?」
「ああ……少しなら」
彼が吐息まじりに気怠そうに答える。
「じゃあ、今持ってくるから……」
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