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白ワインはすでにあいてしまっていた。私は地下のワインセラーへと急ぎ、濃いめの赤ワインを手に寝室へ戻った。
「ラズル……?」
声をかけたが、彼はまぶたを閉じて眠ってしまっているようだった。私は赤ワインをあけ一口を含んで、彼に口移しに与えた。
「あっ……」
彼が唇をひらくと、口元から赤ワインがたれて流れ落ちた。
「寝て、いたのか……」
寝台に彼が半身を起こす。肩からするりとシャツがすべり落ち、たれたワインが赤い筋になって胸元をつたった。
「綺麗……」
「ああ、美しい夜だ……」
彼の瞳は窓の外の夜空に向けられている。
(綺麗なのは、あなただわ、ラズル)口の中で言う。遠くを見つめる彼の横顔を淡い月の光が照らしている。
「ラズル……」
彼のむき出しの背中に頬を寄せた。
「……ルキア」
肩に乗せた私の手に、彼が手を重ねる。
「私が、きっとおまえを守ってやる。この先どんなことがあろうとも……たとえ私の命を賭けてでも……」
「ラズル……命を賭けるなんて言わないで……私は、あなたに生きていてほしいもの」
「ならルキア、約束しよう……。私は、おまえのためにずっと生きていると……」
重ねた互いの手を強く握り合う。それから私たちは、『約束は、決してたがえることがない』と、口づけを交わした。
『たがえはしない』――あなたを、心から愛してる。だけど……いくらワインをあおろうと私の胸から消えないもうひとつの感情に、彼は気づいているだろうか……。
「もう、戻らなくては……」
窓辺に翼をひらき彼が行きかける。
「待って……」
思わず呼び止めたが、「うん?」と、彼に振り向かれると、なんてそのあとを続けていいのかわからなかった。
「約束……忘れないで」
「ああ、忘れない……」
と、彼が微笑みを浮かべる。
その顔を見たら、ふいに涙がこぼれ出た。
「ルキア、どうした?」
「ううん……ごめんなさい。ねぇラズル、お願いがあるの……」
「願い? なんだ?」
「……もっと、私に会いに来て。もっと、もっともっと……でないと、私……」
「わかった……ルキア」
翼を広げた彼が手を差し伸べ、私を空中へと引き上げる。
「おまえの心に、淋しさを棲まわせないように、きっと……約束する」
彼が翼ごと私の体を包んでくれる。
「ラズル……約束、守って……」
「ああ……」
彼に再び口づけられる。と、唇を通してドクリと何かが流れ込んだ。
「血……」
「そうだ、ルキア。この血に賭けて、私は誓おう……おまえと私とはいつまでもともにあると」
いつまでもともに……たとえ離れていようと心はいつでもそばに……私は、この彼の言葉があれば耐えられるかもしれない……たった一人の孤独を……誰かに持っていかれてしまいそうな心の弱さを、閉じ込めることができるかもしれない……。
「ラズル……」
彼のいなくなった寝台に顔をつける。彼の残り香がかすかにするようだった。
「愛してる……ラズル……」
彼の香りに顔を埋めて、私は安らかな眠りについた。今度目覚める時があったら、そばには彼にいてほしいと願って……。
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