―3―
「誰か! 誰かいないのか! 使い魔! 使い魔はおらぬかっ!」
「…はい、猊下! お呼びで…」
空中に妖魔が現われた。
「こちらへ来い…」
「えっ…」
丸い金色の目を驚いた様子で大きく見ひらいている。
「来いと言っている!」
手をぐいと引き、驚きに軽くあけられたままの唇へ口づけた。
「んっ…猊下…何…を…」
「何を…だと?」
唇を離し、しばし見つめた。
「この私に口づけられて、何を、だと?」
「あっ…猊下…お許しを…」
「その…台詞…貴様……気に入らんっ!」
玉座のわきに常備している剣を抜き取りざま、妖魔を切り裂いた。
「うぐっ……」
青い色の血しぶきが飛び散り、金色の目の妖魔は後ろへ倒れた。
「くだらん…っ」
剣を振るい、付着した血を払った。
「誰か、こいつをかたづけておけ! 邪魔だ…。私は、寝室へ行く! 誰か赤ワインを持て!」
「はっ…」
出現した妖魔3人のうち1人が供につき、2人が謁見の間へ残った。
「……ドラキュラ伯爵様の帰ったあとは、必ず猊下は荒れられる……」
「ああ…だから私たち使い魔は、出現を控えていたのに…この妖魔は、その事実を知らなかったのだろうか」
すでに息絶えている妖魔の頭を持つ。
「まだ入城したてだったのだろう……顔に幼さが残っている」
妖魔の体を廃棄すべく両足を抱えながら応えた。
「しかし猊下は、あの方にやはり特別な感情を……」
「しっ…めったなことを口にするものではない。そのような噂が猊下のお耳に入れば、私たちとて……」
死んだ妖魔に目をやる。
「ああ、確かに…このようにはなりたくないものだ…」
妖魔を窓の外へと投げ捨てる。妖魔は死ぬと、外気に触れて体が自然発火する。
死体は青白い炎に包まれて、一瞬で燃え尽きた。
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