―3―

 何も見えない真っ暗な中、体が伸び縮みするかのような、不思議な感じに襲われたあと、ふいに両足が固い地面に触れた。

 「ルキア……ここが魔界よ。恐がらずに、目をあけなさい……」

 レッドウィングスにうながされ、そろそろとまぶたをひらく。濃紺の闇に包まれて、枯れ木ばかりが目につくような、渇いて殺伐とした風景が広がっていた。

「ルキア、ブルーアイズの幽閉されている場所へ行くわよ」

森閑とした静寂の中に、レッドウィングスの声ばかりがやけに響く。

「まるで、生きてるものは何もないみたい……」

呟くと、レッドウィングスが振り返って、「獲物を狩りに行ってるか、それぞれの屋敷の中に引きこもっているのよ。ここでは、誰かが誰かを気にかけて訪ねていくことはあまりないわ。だから往来もない……誰かを気にかけわざわざ出向いていくことなど、誰もがむだな労力だと思っている。……魔界とは、そういうところよ」そう話した。

「じゃあ、レッドウィングス、あなたは魔界の住人たちとはちがうの? ラズルを慕い、彼を助けたいと思っているあなたは、ここの住人たちとはちがって、情を持ってるの?」

彼女に聞いてみようと思ったが、あまりの静けさに声を出すのさえはばかられるようで、つい言葉をのみ込んでしまった。

「そこよ…ブルーアイズは、そこにいるわ」

 レッドウィングスが空中でホバリングをしながら、闇に中に白く浮きたつ城を指し示した。

「あの城は……」

「そう、ブルーアイズが地上で棲みかとしていた城。棲みなれた城を、そのまま次元転換させて、魔界へ移行させたのよ」

「ラズルは、あそこにいるの…?」

久しぶりの懐かしい城を見上げる。

「いるわ。あの城の尖塔に、ブルーアイズは幽閉されているわ」

 「尖塔って、どこにあるの?」

「今から案内するわ。ついてらっしゃい」

あの頃何度も通った城の扉を、レッドウィングスが押しあける。鉄の扉が重くきしんだ音をあげたのは、あの頃と変わりがなかった。

 

  

 

レッドドウィングスは入ってすぐ真正面にある広間の大階段を上り、コの字型の中2階の廊下を左へ折れると、行きどまりにある奥の扉をあけた。

扉の先は薄暗い廊下が右に曲がり城を囲むように続いていて、両側には部屋もいくつかあったが、レッドウィングスは城の構造をよく知っているらしく迷うことなく進んでいった。

やがて行き止まり、左右に廊下が分かれたのを右に曲がり短い階段を上がると、2つの扉が間をあけてあった。

レッドウィングスは2つの扉の真ん中に立って、ちょうど扉の把手部分にあたる壁の石に長い爪を引っかけて、すっと手前へ抜いた。すると、何もないかのように見えた壁が、扉の形にずしりと倒れてひらいた。

隠し通路に入り、幅はさらに狭くなって、暗さを増した。

以前なら真っ暗で何も見えないような暗さだった。でも、ヴァンパイアとなってしまった今では、暗闇でもよく目がきいた。

通路の先が、またも石壁にさえぎられた。が、レッドウィングスはとまどうことなく体をかがめ、壁に下がっていた小さな金色の環を引いた。再び石壁は引きあけられ、筒状の塔をめぐるらせん階段が現われた。

「ブルーアイズは、この塔の先端に幽閉されているわ。私は先に行って、見張りがいないかどうか見てくるから」

レッドウィングスは言って、赤い翼を広げると、塔の上へと飛んでいってしまった。

手すりも付いていない狭い階段を、今にも落ちそうになる恐怖に怯えながら少しずつ上っていく。吹き抜けの塔の壁には楕円形の窓が不等間隔にあったが、外も暗い世界では一筋の光が入り込んでくることもなかった。

しばらく上がっていくと、レッドウィングスの姿が見えた。私の足音が聞こえたのか、彼女は振り向いて、「見張りは誰もいないわ」と、告げた。

「そう、よかった……」応えて足を踏み出そうとした時だった。

「だめ! それ以上行くと下へ落ちてしまうわ!」

レッドウィングスに体を押しとどめられ、足元を見ると、唐突に階段が終わっていた。

「トラップよ…侵入者は、ここからまっさかさまに下へ落ちるわ…」

「あ…、ありがとう。助けてくれて…」

「前にも言ったように、あなたに礼なんか言われる覚えはないわ。それより、ブルーアイズを早く助け出さないと……そこの頭の上の石を押せば彼のいるところへ出るはずだわ。私は、外で、誰か来ないか見張っているから。あなたは早くブルーアイズのところに行って」

「わかった、そうする」

レッドウィングスが、塔の窓のひとつから、鍵をあけ出ていくのを見届けてから、頭上の石板を押し上げた。

 

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