―2―
「……起き…なさい……起きなさい……ルキ…ア……ルキア……」
誰かが、私を呼んでいる。私を、呼ぶのは、誰? 私はもう目覚めたくはない……もう誰も、私を呼んだりしないで……。
「ルキア……起きなさいっ!」
有無を言わせぬ強い口調……この声を、どこかで聞いたことがある……。
「起きなさいと言ってるのよっ! ルキアっ!」
いきなり頬をパンッと平手で打たれ、驚いて目をあけた。
私の体の上にまたがり、服のえりをわしづかみにして、見覚えのある顔が見下ろしていた。
「あなた……レッドウィングス……」
「そうよ! 私が呼んでいるのに、あなたいつまで寝ているつもりなのっ!」
―レッドウィングス― かつて、私への愛からヴァンパイアであることを放棄しようとしたラズルを、街の人たちを次々と手にかけその血を与えることで、生き永らえさせた張本人……彼女もまたラズルを愛していて、2人の仲を引き裂こうと、彼に私の血をわざと吸わせた……嫉妬深く、そして情熱的な、コウモリのような紅い翼を持つ女ヴァンパイア……。
「ルキア! あなたのせいよっ! あなたのせいでブルーアイズは……! なのにあなたがぬくぬくと眠りについてるなんてっ! 許せないっ! 許せないわ!」
レッドウィングスは感情にまかせて、つかんだ私のえり首を締め上げていく。
「痛っ…やめ、やめて…レッドウィング…ス…苦…しい…」
「苦しいですって!? あなたの苦しみなんか、ブルーアイズの受けている罰にくらべたら……! あなたなんか死ねばいいんだわ! あなたが死ねば、ブルーアイズは助かるんだから…!」
「ラズルが、罰を……私が死ねば、彼が助かるのなら……殺しても、いいわ……レッドウィングス」
苦しい息の下から言うと、レッドウィングスは急に手を離し、私の体はベッドの上に乱暴に投げ出された。
「殺されても、いいだなんて……あなたそんなに、ブルーアイズのことが好きなの?」
「好き…だわ。愛してる……彼のために死ねるのなら、本望に思う……」
レッドウィングスは私の顔を見つめ、「じゃあ、ご希望通りに、あなたの首でもはねてあげましょうか?」淡々と告げた。
「いいわ……。それでラズルが救われるのなら、好きにすればいい……」
覚悟をして、目を閉じた。元より消そうとしていた命だった。その命が、ラズルの役に立つのなら、無条件で差し出したかった。
でもいくら待っても、レッドウィングスが手をかけてくる気配はなく、不審に思い目をあけてみた。
彼女は無言で、ただ私の顔をじっと見ていた。
「…レッドウィングス? 私を、殺さないの…?」
私の上に馬乗りになっていたレッドウィングスは、さらに顔を近づけて、「殺さないわ」と、言った。
「なぜ?」
息がかかる程に顔を寄せて、「あなたと、協定を結ぶことにしたからだわ」レッドウィングスは思いもしなかった返事を返した。
「協定って……」
「そう、協定。あなたも私もブルーアイズを愛しているのは同じ……ならここでいがみ合ってるより、協定を結んでブルーアイズを助けた方がりこうってもんでしょ?」
「レッドウィングス…じゃあ、私を魔界へつれていってくれるの?」
「つれていくわ。だけどかんちがいしないで、あなたと協定を結ぶのは、ブルーアイズのためであって、決してルキア、あなたの存在を認めたわけなんかじゃないってこと……」
「ええ…わかってる。だけど、うれしい…ありがとう。私をブルーアイズのところへつれていってくれるなんて……」
「あなたに、礼なんか言われる筋合いはないわ。それに、だいたい……」
レッドウィングスはそこまで言って、口元に小さく笑いを浮かべた。
「何?」
「なんの抵抗もしないようなヒトを殺したって、おもしろみがないもの…」
ゾクリとするような微笑みに、思わず身震いする。やっぱり、彼女は魔もの……そう簡単に気を許してはいけないのかもしれない……。
「さ、そうと決まればルキア、魔界へさっそく……さぁ、いらっしゃい」
いいえ、今は彼女を信じよう……迷いを振っ切り、差し出されたレッドウィングスの手をつかみ、蒼い翼をひらいた。
「魔界への入口は、紅い凶星の傍らにあるわ…」
「紅い凶星って…?」
「あれよ。血の色をしたあの星…」レッドウィングスが、空に瞬く星のひとつを指差す。
「紅い…星…」
「そう、あの星が輝きを放つ夜は、必ず何か悪いことが起きると言われている、紅い凶星……不吉ないわれがあるのは魔界の入口があるからなのか、不吉ないわれがあるから魔界への入口があるのか……どちらなのかはわからないけど……」
赤い光のそばへ近寄ると、真っ暗な闇の中に吸い込まれるような感覚があった。
「手を離してはだめよ。魔界へ入るわ」
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