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自分の城に戻ったルシフェルは、寝室に閉じこもり自己嫌悪に頭を抱えた。

「……なぜ、私はあんなことを言ったんだ……ミカエルの考えなど知っていたのに……思いは決して打ち明けることなどないと誓っていたはずだったのに……」

ルシフェルの目から後悔の涙がすべり落ちる。

 長く艶やかな金色の髪と青い瞳に白く細い手足、人形のように美しいミカエルは、触れれば壊れてしまいそうなくらいに繊細で、あまりにも純粋だった。

ルシフェルは唇を噛みしめ、寝台の上の羽根枕に拳を打ちつけた。

「……ルシフェル、入ってもいいか?」

ふいに寝室の入り口の方から声が聞こえて、ルシフェルは枕に押しつけていた顔を上げた。

「ベール……」

 扉のそばに立っている背の高い男を見やり、ルシフェルがぼんやりと呟く。

「いいか……ルシフェル? おまえはここだからと言われたのだが……」

「ああ…かまわない…少し、考えごとをしていただけだ……良かったら、酒につき合ってもらえるか?」

「我で良ければな……」と、寝室の中へ入り込んできたのは、黒い髪に黒曜石のような黒い瞳が見る者を圧倒せずにおかないベールゼブルという天使だった。

「珍しいな……おまえが、酒をあおるなど……」

 グラスを合わせ酒を酌み交わして、ベールゼブルがふと口にする。

「そう…か……私も、そんな気もちになる時もある……」

 言ってグラスに口をつけた途端、ルシフェルの酒で緩んだ涙腺から涙が流れ落ちた。

「……泣いているのか?」

ベールゼブルがグラスを置きルシフェルの顔をのぞき込む。

「アルコールのせいだ……なんでもない……」と、首を振るルシフェルに、「我に話してみろ……」と、ベールゼブルがつめ寄る。

「しかし……」と、ルシフェルが口をつぐむ。

「おまえが泣くほどのことだ、よっぽどのことだろう……話せば少しは楽になるはずだ……話してみろ」

言いつのるベールゼブルに、ルシフェルが「……ああ…うん……」と、微かにうなづく。

持っていたグラスの酒をごくりと飲み干して、ルシフェルは、こう切り出した――。

「……おまえは、こんな噂を知っているか? 私とミカエルが兄弟だという噂を……」

わずかな間を置き、「ああ……そんな噂を聞いたことがある……」と、ベールゼブルが答える。「しかし…そのような噂、誰がおまえに吹聴したんだ……」

「ベリアルだ……奴に、聞いた……」

「ベリアルか……。あやつは、人を惑わせることをおもしろがっているようなものだからな……だが、ルシフェル、そんな奴に聞かされた噂ひとつで、おまえがそこまで気を落としているわけでもあるまい……」

「ああ……」と、ルシフェルがうなづく。ベールゼブルにつがれたグラスに口をつけて、ルシフェルは「ミカエルのことだ……」と、話した。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

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