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「私とおまえが……」
先ほどの話をしようとしてルシフェルは口をつぐんだ。ミカエルに話題を振れば、自分よりも気にすることは明らかに思えた。
「どうした……なぜ、黙っている?」
「ああ……」と空返事をして、ルシフェルは頭をめぐらした。
「おまえは……自分に兄弟がいたとして、その兄弟を愛せると思うか……?」
「……兄弟? またずいぶんと唐突なことを聞くんだな?」ミカエルはふっと笑顔になり、「私に兄弟がいたとしたら、かわいくてしょうがないだろうな……きっと愛すると思うが?」と、話した。
「ちがう…」と、ルシフェルは首を横に振って、「兄弟を恋人として愛せるのかと聞いている……」と、言った。
「兄弟を……?」ミカエルは聞き返し、「それは、禁断の愛のことを言っているのか?」と、つけ加えた。
「そう……禁断のだ……たとえ兄弟だと知りながらでも、おまえは愛することができると思うか?」
ミカエルが困惑するだろうことはわかっていた。だがルシフェルは、そう聞かずにいられなかった……自分がもしミカエルと本当に兄弟だったとしても、目の前の美しい天使は自分を愛してくれるのか……それを、どうしても知りたかったのだ。
「……できない」沈黙のあと、ミカエルは声を絞り出すようにして一言そう答えた。
「できる…わけがない……禁断の愛など、神を裏切る背徳の行為だ……兄弟である者を、だいたいなぜ恋人として愛さなければならない!」
語尾を荒げ、怒りを帯びた眼差しで自分をにらみつけるミカエルに、「すまない……」と、ルシフェルは目をそらした。答えなど、最初からわかっていたはずだった。ミカエルが、受け入れてくれるはずもなかったのだ……同性どうしで愛することすら、異端として毛嫌いするミカエルに、まして兄弟どうしで愛することを理解できるはずもなかったのだ……。
「……なぜ、そのようことを聞く? それが、おまえの落ち込んでいる理由と関係があるとでも言うのか……?」
黙り込んだルシフェルに、ミカエルが心配そうに声をかける。
「いや……ちょっと、聞いてみただけだ……」と、ルシフェルは無理に笑顔をつくった。話すべきなどではなかった……自分の中でよけいに重くのしかかった想いに、ルシフェルは笑い顔を歪めた。
「……私は、おまえの助けになれなかたようだな…ルシフェル……」
ミカエルがさびしげにリュートをポロンと弾き、噴水のへりから立ち上がる。
「ちがう……そうじゃない、ミカエル……」
振り仰いだルシフェルの目と、長いまつげの陰で青く透き通るまでに煌くミカエルの瞳とがかち合った。ルシフェルの中で、その瞳に自分だけを映してほしいという想いがふくらむ。同性を愛することを拒んでいるというミカエルに、ルシフェルは一度も口に出したことはないその想いをつい打ち明けた。
「ミカエル……もし、私がおまえを愛していると言ったらどうする……」
「えっ…?」と、ミカエルが口をつぐむ。瞳が驚きに見ひらかれる、ルシフェルは聞いてはならないことを聞いたととっさに悟った。
「そのようなこと……」
「もう、いい…」と、ルシフェルがミカエルの言葉を遮る。
「今日の私は、おかしい……つまらないことを聞いた……」
「しかし、ルシフェル……」
「もう……それ以上、何も言うな……わかっている……おまえは、兄弟と愛し合うことはできない、同じように同性とも……(それは、相手が誰であろうと変わらない……)」
最後の言葉を心の中で呟くと、ルシフェルはつっ立っているミカエルに、「また、別の機会に会おう……」と、告げて、長く美しい黄金色の髪にやさしく触れた。
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