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「そう…か。私は永い間ルキアをひとりにしていたからな…」

「ラズル……」

呼びかけたルキアを遮って、オズマが「伯爵……」と、声をかける。

「……二度までも、あなたを侮辱することを、どうかお許しください……」

「……そのようになど、私は思っていない……ひとの気もちは、変わるものだ……」

顔を上げてほしいと手を差し伸べるブルーアイズに、「……それでいいのですか?」と、オズマが問い返す。

「あなたは、憎くはないのですか……? あなたから魂を奪った私が……そして今、愛するものまで奪おうとしている私が……」

「やめて……オズマ……」

ルキアがオズマの背中にしがみついて、小さな声で言う。

「そのようになど、思ってはいない……私は、あの時、死をも望んでいたのだから……」

「ラズル……やっぱり、そうだったの……」

ルキアがかつてのレッドウィングスの言葉を思い出して呟く。

「私は……あの時、自分の弱さから、私を思ってくれていた全てのものたちを裏切ったのだから……」

口にするブルーアイズに、「あなたは、弱くなどありません……」と、オズマが話す。「本当に弱い人は、自分から弱いなどとは言わないものです……弱い犬がよく吠えるように、弱い人はそれを隠そうとして強がるもの……あなたは、強い人のはずです」

「そう…なのだろうか……」

納得しかねているブルーアイズに、「そうです」と、オズマが強く言う。

「あなたは強い方です……それゆえに、私は、あなたが許せない……」

オズマの瞳から、悔しげな涙がこぼれ落ちる。

「あなたは……私には到底及ばない強さと、心の深さを持っている……私にはかなわない強さを……」

「オズマ……もう、いいから……」

ルキアがオズマの震える背中を抱きしめて言う。

「私は、あなたが憎い……私を憎みもせずに、許そうとするあなたが……」

涙のたまった目で自分をにらみ据えるオズマにもう一度手を差し出して、「憎むのはかまわない……だが私は、父上からもらった命を二度と投げ出すこともない……」と、ブルーアイズは告げた。

「いいえ……寝首を、いつか……」

と、オズマが言い返す。

「オズマ……どうして、そんな……」

たずねるルキアに、「……これが、本当の私の姿だ……」と、オズマが言う。

「私は、私の弱さを、私の汚さを露呈させるこの伯爵が、憎くてたまらない……ただ、自分の傲慢さを思い知らされるばかりの彼の存在が……私は、私を正当化するためにも、伯爵の首を取らなければならない……」

「おかしい……そんなの……ラズルは、あなたには関係ないでしょ? オズマは、オズマなんだから……」

「そうだ……しかし、この人を見ていると……妬みが、こみ上げる……」

「妬みって……」

言葉を失うルキアに、「やはり…だめだ…」と、オズマが首を左右に振る。

「私には、彼から何も奪うことなどできない……」

呟いて、ふいにオズマが立ち上がる。

オズマの出ていこうとする気配に、「行かないで……オズマ」と、ルキアが引き止める。

「ルキア……すまない。……私は、ただの傲慢な男にすぎない……私が、自分を魔獣に変えたラミアを伯爵のように許すことができていたら……こんなことにすら……」

「オズマ……! だって、私は、あなたを愛して……!」

声をあげたルキアに、オズマは振り返り、「私を愛していると言うのなら、私の目の前で、その伯爵を殺してほしい…」と、言った。

何も言えずつっ立ったままでいるルキアに、オズマは「ふっ…」と笑い、「おまえが、私を忘れずに好きでいてくれたら、いつかまた再会しよう……」と口にして、歩き去った。

 

  

 

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