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「レッドウィングス、なにを言ってる!」
たわ言を言うなと制止させようとするファントム・ウルフに、「いいの…。聞いて…」と、レッドウィングスが言う。
「……伯爵、彼はいつも死を望んでいました。誰をもかばい、誰を傷つけることも望まずに……たとえそれが死につながることだとわかっていても、ためらうことなく身を投げ出して……。それは彼の生きるには不向きなやさしさと言われてたけれど、ちがう……死ぬ場所を探してたいたんです、彼は。ずっと……伯爵とお母様が亡くなられたあの夜から……。自分を赦せずに、なのに自ら死を選ぶこともできずに、ヴァンパイアであることの名誉と拒絶とに責め苛まれて……。飢えて、渇いて……かわいそうなくらいに、愛を求めて……伯爵、切なくて仕方がなかったのです……あの人を見ていると。どうしようもなくつらくて、胸がつまりそうで……だから、死を選ばせてあげることしか、私にはできなかった……。……あの人が変わらずに求めていたお母様のような深い愛情を、私にはあげることができなかった……死をもって断ち切ることしか、私には! あの人は、私が殺したも同じです……!」
「もう、よせ…レッドウィングス…」
ファントム・ウルフがレッドウィングスを腕に抱いて胸に押しつける。
「奴は……死んでも、まわりを悲しませやがる」
グレイが呟く。
「そうか……息子が、そのように追いつめられていたなど……」
額にしわを寄せ腕を組むドラキュラ伯爵に、「……くだらない感傷は、それぐらいに……」と、デッドエンドが囁く。
「貴方はこれから、この私とともに魔界の支配を……」
「支配だと……!」
ファントム・ウルフがデッドエンドの言葉を遮って叫ぶ。
「ファントム……俺が、猊下を呼んでくる。待っていろ!」
グレイがこうもりに変わる。
「……ドラキュラ伯爵の力を借りれば、魔界の支配などたやすい……伯爵とともに、魔ものどもを片端から狩ってくれるわ!」
「よして……! 伯爵は、そんなことはしないっ!」
「さぁ…どうかな?」
デッドエンドがにやりと顔を歪める。
「伯爵の魂は、我が手の中にある! 戯言など、しょせん聞く耳を持たぬわ!」
「伯爵……! ブルーアイズのためにもそんなことは……!」
「………………」
ドラキュラ伯爵は何も応えず、レッドウィングスの顔をじっと見つめながら黙ったままでいる。
「ふっ……無駄なことだと言っておろうが!」
デッドエンドは勝ち誇ったように口すると、
「さて…そろそろ行きましょうか?」
と、見せつけるように伯爵の肩に腕をまわした。
「……待て! 魔界を貴様の自由になどさせぬ!」
「その声……」
消えかかっていたデッドエンドが頭を振り返らせる。
「サタンか……!」
グレイとともに現われた猊下サタンが、手をかざし呪縛の術を唱える。無数の光の糸が体に絡みつき、デッドエンドが身をよじる。
「くっ……なめた真似をっ!」
「ここは、貴様などのいるべき場所ではない!」
「黙れっ……! その言葉、そっくり返してやろう……!」
体を縮こめる光の糸をがっと腕を広げて一瞬にして引きちぎると、
「貴様になど、この私は捕らえられぬ! 魔王たるオーラが薄すぎるわ! サタンの座などすぐに奪ってくれる!」
と、デッドエンドは声をあげて高らかに笑った。
「くっ…」と、悔しげに声をもらす猊下を、横からグレイが支える。
「すぐに貴様の首をとってやるから、待っているがいい!」
デッドエンドが笑い声を残し消えようとする。
「……伯爵! ブルーアイズのためにも……!」
レッドウィングスの叫びに、一瞬ドラキュラ伯爵は顔を向けたようにも見えたが、次の瞬間にはデッドエンドたちの姿は空中にかき消えて見えなくなってしまった……。
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