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「レッドウィングス……俺が囮になる。おまえが、奴を捕まえてくれ」
「囮って…ファントム、なに言ってるの!」
「しっ……でかい声をあげるな」と、ファントム・ウルフがレッドウィングスの口をおさえる。
「先程の猊下のご様子からして、ことを荒立てるわけにはいかない……幸い、この俺は怪我をしている。奴にとってはかっこうの獲物のはずだ……こちらの隙を狙っているにちがいない……」
「でも、あなた自らがその役を買って出るなんて……」
「心配してくれるのはうれしいが、聞き分けてほしい……こうするのが、最良の策なんだ」
ファントム・ウルフに「な…?」と念を押され、レッドウィングスが顔をうつむけてうなづく。
「よし…では俺は、そのへんをぶらぶらしてくる。あとは、頼んだぜ?」
ファントム・ウルフがぽんぽんとレッドウィングスの肩をたたく。
「うん…だけど、気をつけて。ほんとに…。あなたまで失うのはいや……」
「大丈夫だ…俺は、そう簡単に命をくれてやる気などない……」
ファントム・ウルフが笑い、窓枠を飛び越える。
「……ブルーアイズ、私たちを守って。お願い……」
レッドウィングスが月に向かい呟くと、応えるように月がかすかに煌いて見えた。
ファントム・ウルフは風がうなりをあげる中を歩いてくると、切り落とした手首に無造作に巻きつけていた布を取った。
「くっ…、やっぱ痛ぇな…」
顔をしかめ、傷口を眺める。傷痕はまだ生々しく、血が止まらずに流れている。
「…再生には、時間がかかりそうだな、こりゃ……」
ふっ…とファントム・ウルフが笑いを浮かべる。
「……惚れた女のためとは言え、俺もつくづく無茶なことをしたもんだよな」
地面からつき出た岩に背中をもたれかけさせると、ファントム・ウルフはわざとらしく持ってきた魔術書をひらいて見始めた。
ぼんやりとどれくらい呪文ばかりが並ぶ頁を見ていただろう。そろそろ眠くなってきたファントム・ウルフがあくびを噛み殺していると、風が生あたたかく変わったのがわかった。
「来たか……」
「……わかりやすい、罠を……」
中空に現れたデッドエンドがかついでいた大鎌の柄をドンと音をたてて地面につき刺す。
「ふん…わかりやすい罠にかかりにきたのか?」
ファントム・ウルフが挑発するように言う。
「貴様……口の減らぬっ!」
デッドエンドが大鎌を振り上げる。
「……ひとおもいにっ!」
「やれるもんなら、やってみるがいい!」
ファントム・ウルフが下ろされた鎌をすっとかわすと、鋭い刃がもたれていた大岩をスパンと斜めに切り裂いた。
「この私をからかうなど、100年早いわ!」
振り返りざまデッドエンドが大鎌を真横に引く。ファントム・ウルフはとっさに飛びのいて避けたが、避けきれずに銀の髪を一束切り取られた。
「次は、首をもらう!」
「やれるか!」
ファントム・ウルフは叫び返しながら、(何をしている、レッドウィングス!)と、胸の中で声をあげた。
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