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ファントム・ウルフはレッドウィングスをつれ城へ戻ってきた。
手を引いて地下へと導く。人狼族の長でもあるファントム・ウルフの城には魔界の空間を移動するための転移ゲートがある。
ファントム・ウルフはレッドウィングスの手を握ると、空間転移ゲートに手をあてた。
「猊下……本日は、ご報告があって参りました」
急ぎ謁見の間にやって来たファントム・ウルフが、レッドウィングスとともに御前にひざまづき告げる。
「報告? どのようなことだ?」
ブルーアイズの死から長く伏せっていたという猊下が、わずかにやつれた面差しに軽く手を添えて頬づえをつく。
「ええ…本日このレッドウィングスの館にて、魔術書に封印されていた、デッドエンドというデスが蘇りまして……」
「デッドエンドが、蘇っただと?!」
ふいに声を荒げた猊下に、ファントム・ウルフが恐縮して「え…ええ」と、うなづく。
「デッドエンド……奴の封印が解かれるなど……」
猊下が言葉を切り、狼狽したように片手で顔を覆う。
「猊下……そやつは、それほどの脅威なのですか…?」
猊下の反応にただならぬものを感じたファントム・ウルフがたずねる。
「ああ……デッドエンドは、死神の長……だが、あまりに強大な魔力を誇り、死せる魂をも自在に操ったため魔界の禁忌として封印したのだ……奴が蘇ったとなれば、ただでは済まされない……」
「そのことなのですが……デッドエンドは、先代のドラキュラ伯爵を蘇生させる模様で……」
「ドラキュラ伯爵を……奴が、そう言ったのか。封印されていたという魔術書は、どこに?」
「ここに…」
レッドウィングスが魔術書を差し出す。
猊下は表紙を眺め、頁を何枚かめくると、息を吐いてぱたりとまた表紙を閉じた。
「これは……どこに、あった?」
「……ブルーアイズが、私の館へ持ってきたのです」
「ブルーアイズが…そうか…」
レッドウィングスの答えに、猊下は一瞬哀しげに眉を寄せ、それから、
「この魔術書は、私がブルーアイズ誕生の折りに先代に贈ったものだ」
と、告げた。
「猊下が…? …では、デスを封印されたのも…」
「ああ…先代に贈答を兼ねて保管を頼んだのだ…それが、こんな形で……」
「猊下、この失態は身を持っても……」
「ああ…奴は、蘇生させたドラキュラ伯爵の力を借り、より鮮明な実体を持つ気だ…頼む、デッドエンドを止めてほしい…奴が完全に蘇ってしまえば、今の私では抑えることはできない……」
猊下が眉間に深いしわを刻み憂いを見せる。ファントム・ウルフとて魔界の噂を知らないわけではない、だがここまでブルーアイズの死が魔王サタンに影響を与えるなど思ってもみないことだった。
「猊下……デッドエンドはきっと仕留めますので、ご安心を……」
思わず気づかう言葉をかけたファントム・ウルフに、猊下は「すまない……」と呟いて、力なく首を左右に振った。
「もったいないお言葉……まずは手始めに、何をしたらよろしいのでしょう……」
「……奴は、蘇生に必要な贄を狩るはずだ。血の匂いのするところに、奴は贄を狙って必ず現れる……」
「わかりました……血の匂いなら、私が嗅ぎつけて、デスよりも先に……」
レッドウィングスが言う。
「おまえは……ブルーアイズと同期のヴァンパイアか……」
「はい、レッドウィングスと申します……以後、お見知りおきを。デッドエンドは、必ず……死んだブルーアイズが悲しむようなことは、絶対に……」
「そうか…これは、返しておく…ブルーアイズの忘れ形見なのだろう…」
猊下に手渡された魔術書を、レッドウィングスは静かに頭をたれて受け取った。
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