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気配がする。

彼女は、来る。

目を閉じて眠るふりをする私の寝台の傍らに、あの夜と同じようにラミアの姿が近づいた。

「……オズマ様、なぜ別の方を選ばれたのです。私は、あなたを愛していましたのに……。オズマ様が他の方に奪われるくらいなら、いっそ呪いをかけて、二度と誰のものにもならないように……」

ラミアの悲愴な決意がうかがえる。

彼女が、そこまで追いつめられていたなど……私は、呪文をかけようとしていた彼女の手首を握り、

「ラミア」

と、呼びかけた。

彼女が、驚きに目をむいて私を見る。

「ラミア……私が国の政略のために結婚しようとも、心はおまえのものだ……私は、おまえを、愛して……」

「う…そ…つ…き…」

ラミアの口からうめくような言葉がもれる。

次の瞬間、

「私だけのものでないのなら、けだものになってしまえばいいんだわ!」

叫び声とともに、まぶしい閃光が体を包んだ。

「まさか…避けられ…ない…?」

私の体は、次第に光に覆われていく。この光に全身が包まれてしまえば、私は魔獣に変えられてしまう。

ラミアの口からは、朗々と呪文の詠唱が続いている。

彼女を止めなければ……再び、あの夜をくり返すわけにはいかない。

私はラミアに手を伸ばし、必死で彼女の呪文をやめさせようとした。

 

 

やめさせようとしているつもりだった……だが、いつしか呪文を唱える声が聞こえなくなって、ふと見ると、私は、ラミアの首を絞めていた。

「…う…うあぁーーー」

あげた声は、獣の咆哮のように城内に響き渡った。

私はラミアを止められず獣に変えられたばかりか、彼女さえも手にかけて殺してしまったのだ。

「な、ぜ……あの夜よりも、酷いことに……」

ぐったりとするラミアの体を抱く私の元へ、侍女が駆け込んできた。

「いやぁーーーー! 化け物が、城に! 城にっ!」

悲鳴をあげる侍女に、私は窓を割って城の外へ飛び降りた。

「…バカな…なぜ、このような…」

城を見上げた私の目に、窓に群がるものたちの顔が見えた。

「あそこだ! 化け物は、あそこだ!」

口々にわめき、指を差して叫ぶ姿に、もはや戻ることは叶わないと知って、私は四つ足で土を蹴り、逃げのびた。

 

  

 

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