-5-
「…手ぬるい…」
魔鏡を見ていたグレイが口にする。
「ひと思いに攻め落とせないのか!」
いらいらと声を荒げるグレイに、姿を消していたインキュバスが出現する。
「……じわじわと追いつめるのが、常套手段かなと思ったんだけど…だめ?」
わざとらしく出方をうかがうインキュバスに、
「だめだ!」
と、グレイがよけいに怒りをつのらせる。
「もっと決定的な過去はないのか!」
「……あるけど」
と、インキュバスが口をとがらせる。
「だったら、一気にやれ! これ以上、俺を怒らせるなっ!」
「わかったよ…もう、楽しみは最後までとっとこうと思ったのにな…」
ぶつぶつと言った挙句、インキュバスは切れたグレイに張り飛ばされた。
寝台で目をあけた私に、執事が声をかけてきた。
「…明日は、婚礼の儀ですね…」
「え…」と、思わず聞き返す。
「よいお妃様が決まられてよろしかったですね。今宵は、よくお休みを…」
「そんな……」
執事の言葉に、息を呑む。
「それでは…私は、これで…」
執事が、寝室を出ていこうとする。
(…婚礼の前夜とは、あの夜ではないか……)
押し寄せる不安に、執事を呼び止めようとするのに、のどがかすれて声が出ない。
「…あの夜が、また、やって来るなど…」
体がかすかに震えるのを感じる。
私は、あの夜を回避することができるのだろうか。
もし再びやり直せるのなら、私は、ラミアをあんな形で失うことさえ避けられるのかもしれない。
執事が行ってしまうと、私は覚悟を決め、その瞬間を打ち壊すことに賭けた。
寝台に体を横たえたが眠れるわけもなく、私は身じろぎもせずに彼女が現れるのを待った……。
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