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「…手ぬるい…」

魔鏡を見ていたグレイが口にする。

「ひと思いに攻め落とせないのか!」

いらいらと声を荒げるグレイに、姿を消していたインキュバスが出現する。

「……じわじわと追いつめるのが、常套手段かなと思ったんだけど…だめ?」

わざとらしく出方をうかがうインキュバスに、

「だめだ!」

と、グレイがよけいに怒りをつのらせる。

「もっと決定的な過去はないのか!」

「……あるけど」

と、インキュバスが口をとがらせる。

「だったら、一気にやれ! これ以上、俺を怒らせるなっ!」

「わかったよ…もう、楽しみは最後までとっとこうと思ったのにな…」

ぶつぶつと言った挙句、インキュバスは切れたグレイに張り飛ばされた。

 

 

寝台で目をあけた私に、執事が声をかけてきた。

「…明日は、婚礼の儀ですね…」

「え…」と、思わず聞き返す。

「よいお妃様が決まられてよろしかったですね。今宵は、よくお休みを…」

「そんな……」

執事の言葉に、息を呑む。

「それでは…私は、これで…」

執事が、寝室を出ていこうとする。

(…婚礼の前夜とは、あの夜ではないか……)

押し寄せる不安に、執事を呼び止めようとするのに、のどがかすれて声が出ない。

「…あの夜が、また、やって来るなど…」

体がかすかに震えるのを感じる。

私は、あの夜を回避することができるのだろうか。

もし再びやり直せるのなら、私は、ラミアをあんな形で失うことさえ避けられるのかもしれない。

執事が行ってしまうと、私は覚悟を決め、その瞬間を打ち壊すことに賭けた。

寝台に体を横たえたが眠れるわけもなく、私は身じろぎもせずに彼女が現れるのを待った……。

 

  

 

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