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「…ブルーローズ…来い!」
呼ばれて、黒いこうもりの翼を持ったインキュバスが姿を現わす。
「…こいつの夢を、探ってこい…」
「はい! 公!」
用事を頼まれるのがうれしくてたまらないというようすで、インキュバスが返事をする。
オズマの口をひらかせると、インキュバスは小指にはめた指輪の小さなふたをひらいた。
「…あのね、この中に夢の粉が入ってるんだよ。夢の粉ってさぁ、つくるのすごいめんどうでね…ほら、僕の角に絡まってるバラの花弁からつくるんだけどね。でも僕って、このバラがあんまり咲いてないでしょう? だから咲くまで待ってね……」
「やかましい!」
と、グレイがインキュバスの口をおさえる。
「黙って、やれ…いいな?」
インキュバスはうんうんと首を縦に振ってうなづき、指輪の中身をオズマの口の中にあけた。
きらきらと輝く虹色の粉がこぼれ落ちる。
と、聞こえていたオズマの寝息が乱れ、横たわったままの体にわずかな身じろぎが起こった。
「…今、夢の粉を飲ませたから、もうどうにでもできるけど……どうする?」
首を傾げて聞くインキュバスに、グレイが口をひらく。
「…死よりも辛い悪夢を、見せてやるがいい…」
ほくそ笑むグレイの顔のあまりの恐ろしさに、思わずインキュバスがぶるっと身震いする。
夢をのぞくための魔鏡に向かい、インキュバスが呪文を唱え始めると、
「…見ものだな…こいつには、どんな悪夢がある…」
グレイは呟いて、くっ…と短く笑った。
「…うん…ここは…」
寝台で目をあけた私は、あたりを見まわした。
「…王子、お目覚めですか?」
「王子…?」
久しぶりに聞く言葉に、耳を疑った。
「…王子? どうかされましたか? 明日はいよいよ即位の儀ですので、本日は現王と最終的なお打ち合わせをなさってください」
「あっ、ああ…」
私はかつての王家に戻ったんだろうか……それとも、今までの出来事が全て悪夢だったとでも……。
考えあぐねるうちにも、侍女がくしを持ち髪をとかす。
「王子様…いつもながら、みごとな金髪ですね…」
「そう、か…」
現状を、把握できない。鏡の中には疑わしげな自分が映っている。
「王子様? 明日には王様になられるのですよね? でも王子様なら、きっとよく私たちを導いてくれると思います」
侍女が髪を束ね、リボンを結びながら口にした。
「ああ…ありがとう…」
私は侍女に笑顔を向け、鏡の前から立ち上がった。
理解できないながらも、侍女の言葉に私はこの世界を受け入れようとしていた。受け入れることで、あの夜さえも変わるのではないかと思い始めていた……。
そう思う私の耳に、その会話は届いた――。
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