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「…ねぇ、オズマ…いつになったら目覚めてくれるの?」

寝台に横たえたオズマの金色の髪をなでながら、ルキアは呟いた。

口元からはかすかに規則正しい寝息は聞こえるのだが、オズマには目を覚ます気配はまるでなかった。

「もう…あれからずいぶんたつのよ…」

髪をなでながらルキアは話し続ける。

「盛大に行われたラズルの葬儀の影で、瀕死のあなたの体はそのまま捨て置かれた……まだ息があるあなたに、誰も見向くこともなく……。こんなことをしたら、また付け狙われるのかもしれないね……だけどね、オズマ……あなたを放っておくことなんて、私にはできなかった……。……似てるんだもの……魔界では、あなたも私も異端児……生きようと死のうと、誰も気にも留めない……あの時、それがよくわかったの……」

ひとりルキアがしゃべり終えた時だった。

ふいに閉じられていた窓がぱたーんとあいて、風が吹き込んだ。

「ん…」と、オズマがかすかにうめいて、まつげを震わせた。

「オズ…マ?」

目覚めるのかもしれないと顔をのぞき込んだルキアの背後で、

「ルキア…俺が誰だかわかるか?」

その声は、突然に聞こえた。

ルキアが恐る恐る頭を振り返らせる。

「ここだ…ルキア」

声のした方には、あの灰色のヴァンパイア、グレイが腕を組んで壁に寄りかかっていた。

「グレイ…私に、何か用かしら…?」

オズマを隠すように寝台の前に立ちはだかり、ルキアが強気に言う。

「用か…」

ふふんとグレイが口元に軽い笑いを浮かべる。

「貴様……いっぱしの口をきくようになったもんだな……」

「関係ないでしょう……それより何をしに来たの……」

「えらそうな口を……」

グレイが言いながらゆっくりとルキアに近づいてきて、あごに手をかける。

「何…するの…」

「だいぶ…ヴァンパイアに近くなったか…」

口をひらかせて、とがった牙をのぞき込む。

「よして……」

手を払われ「ふん…」とグレイは鼻を鳴らすと、「…奴の血をもらったからか…」と、呟いた。

 

 

「……。それで何……何があって、来たの……」

ルキアが思い出したラズルのことを飲み込んで、グレイの灰色の瞳を見つめ返す。

「…わかっているだろう…」

聞かれて黙り込んだルキアに、「かばいだては、許さん…」と、グレイは低く凄んだ。

「知らないわ…なんのこと?」

もう、見つかってしまっているだろうことはとうにわかっていた。

それでも守り抜けるものなら守り切りたいと、ルキアはそう決心をつけていた。

素知らぬ顔で言うルキアに、「ほ〜う…?」と、グレイがあごに手をやる。

「この俺をからかうとは…いい度胸だな…」

グレイの手が、ルキアの首筋をがっとつかむ。

「殺される前に、そこをどけ…」

「くっ…苦し…いや…どかない…」

「貴様…ブルーアイズを殺したような奴を、なぜかばう…」

グレイのとがった爪が、ルキアの首にぎりぎりと食い込む。

「彼も、大切なひとだもの……」

ルキアの言葉が気に障ったらしいグレイが、

「ふん…ばかなっ!」と、声を荒げる。 

「茶番は終わりだ…俺は、そいつに用があるっ!」

グレイは言うと、つかんでいたルキアの首筋にいきなり噛みつき、血を吸い上げた。

「あ…うん!」

ひとしきり血を吸うと、グレイは気を失ったルキアの体を寝台の横へつき飛ばした。

人形のように倒れたルキアを横目に一瞥すると、「…これで、しばらくは起き上がれないはずだ…」と、グレイは血の付いた口をぬぐった。

 

  

 

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