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――空には、紅い凶星が煌いている。

あの星が輝く夜には、何かが起こるとレッドウィングスが言っていた……。

でも、もう何が起こってもかまわない……あの出来事以上の何かなんてない……あれ以上の哀しみなんて、私にはない。

「ねぇ……ブルーアイズ、なぜあなたは死んで……私は生きてるの……」

あなたは、言ったのに……決して死なないと。私のために、生きてると……そう、言ってたのに。

悔やんでも、悔やんでも、悔やみ切れない。

なぜ、助けられなかったんだろう……あの人を。

「ルキア……」

泣き腫らした瞳に、夜空に紅い翼を広げた彼女の姿が映った。

「レッドウィングス……」

「泣いて…いたの?」

彼女の冷たい手が私の頬に触れる。

「……私、あなたに会う資格なんか……」

「そんな言い方、することなんかないわ……」

レッドウィングスがこぼれる涙を指でぬぐってくれる。

「……私にも、責任はあるもの」

「……でも……」

「いいの……もう。自分ばかりを責めていたって、何も始まらないわ…」

レッドウィングスが微笑をつくる。いつから彼女は、こんな風に穏やかに微笑うようになったんだろう……。

「……それより、教えて? 彼は、なぜあんな無茶な闘いを受け入れたのか…」

「無茶な……」

あの時の決闘シーンがふいにまた頭の中に蘇る。

顔を覆う私にレッドウィングスが、「ほら…話して? ね…」と、髪をなでてくれる。

まるで母親のようなやさしさに、胸に顔をうずめて抱きつく。

「……私、私がいけないの……あんなこと、言わなかったら……私があんなこと、思い出したりしなかったら……」

「あんなことって、なに…?」

彼女が言って、しゃくり上げる私の背中をなでさする。

「……彼は、昔ただ一度だけ召還されたことがあるって言ってた……召還したのは若い娘で、その少女は雨宿りに立ち寄った男の人を愛していたって……だけど、その男の人は別の女性と結婚を決めて、それで……」

「それで、ブルーアイズに魔女になることを願ったのね?」

レッドウィングスにこくりとうなづく。

「……彼は、とても後悔をしていた。その少女に魔力を授けてしまったことを……ただ一度きりのことを、とても……。一度きり、一度きりだったのに……なぜ、なぜこんなことに……」

「ルキア……そう、伝えたの? あのオズマとかいう人には……」

「言ってない……」と、首を振る。「言えなかった……あの人が、あまりにも真剣で……私には、もう止められない気がして……言えばよかった……そしたら、変わってたのかもしれないのに……なのに、なのに私……!」

涙があとからあとからあふれてきて止まらない。

 

 

「私も…私も、死んでしまえばよかった! あの人といっしょに……私も! ねぇレッドウィングス! なんで私は生きてるの? あの人は死んで、なんで私は……!」

「ルキア……」

レッドウィングスが私の肩をつかんで、じっと顔を見つめた。

「喜ばない……そんな風に思ったって、彼は。彼は、何よりも、あなたに生きていてくれることを望んだはずよ……」

「だけど……」

「あの人には、あなたの想いは届いていたわ…。あなたの存在は、あの人にとってたったひとつの安らげる場所だったはず……わかって、ルキア。あの人は、あなたの幸せだけを思っていたのよ……」

レッドウィングスの慰めに、素直にうなづけない自分がいる。幸せを願ってくれたのなら、なぜ彼は私のために生きていてくれなかったんだろう。私には、彼がいることだけが唯一の幸せだったのに……。

「ルキア……彼のように、生きてはだめ。あなたは、強く生きて…ね?」

話す彼女の瞳に涙がたまっている。自分も悲しくてたまらないのに、この人は私を力づけてくれている……生きて、と。

「レッドウィングス……私……」

「彼は、やさしすぎたの……たとえそれがただ一度きりの過ちでも、きっと彼にはそれが許せなかった……殺してくれていいと、命を投げ出してしまった……ひどい、話ね……」

と、レッドウィングスは言葉を切った。

「あとに残されるひとたちのことは、なんにも考えないで……」

「……彼のことが、よくわかるのね……」

まるで手に取るように彼の気もちを語るレッドウィングスに、どこかかなわないものを感じる。

「私が? そう…ね、つき合いが長いから……だけど、彼が選んだのは、あなただった……いい? これからも胸に刻みつけて、あなたは生きていくの。ドラキュラ伯爵に愛されたっていうことを、胸に……わかった? ルキア」

「うん…」と、うなづく。強い、強いひと……負けない、レッドウィングス、あなたの想いには。生きて、いく……彼への想いを胸に、私も。

彼は、確かに私のそばにいた。

その想いとともに……。

「……また、来るわ、ルキア」

「うん…また、来て…レッドウィングス」

窓辺から飛び去る彼女に、私はかすかだけれど笑顔を向けることができた――。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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