―5―
……と、その時、
ベッドの傍らのカーテンがふわっと浮き上がった。
「窓なんか、あけてた…?」
涙をぬぐい窓に近づきかけた、その瞬間、窓がバターンと音をたてて左右に押しひらかれた――。
ゴォーっという音とともに、あけ放たれた窓から嵐のような風が吹き込んでくる。部屋の中の小物が突風に巻き上げられる。
自分の体までもが吹き飛ばされそうになるのを、ベッドに必死でしがみつく。
「ルキア……ルキア……」
声が聞こえる。窓の外に誰かいる。
顔を上げて窓の方に向けるが、あまりの風の強さに目もあけられない。
「ルキア……目をあけなさい……」
「だ…れ、なの…?」
息苦しくて、声さえもまともに出せない。
「目をあけなさい!」
命令するかのような厳しい声に、反射的に目をあける。
目に入ったのは、風に髪をなびかせて2階の窓辺に浮く1人の女の姿だった。
「ルキア、よく聞きなさい。ブルーアイズはもらっていくわ」
「ブルーアイズ…?」
その女の背には赤いコウモリのような翼があった。
「そう、あなたに、私のブルーアイズは渡さない」
「ブルーアイズって……ラズルのこと……?……あなた、誰なの……?」
聞いてから、ふと思いつく。この人の顔をどこかで見たことがある。
「私は、レッドウイングス。ブルーアイズと同じヴァンパイア……」
「ヴァンパイア……?」
思い出した――この人、あの時ラズルといっしょにいた、ラズルと棺の中にいたあの女の人だ。
「あなたにブルーアイズは渡さない。あなたのせいで、ブルーアイズは死ぬところだったんだから……」
「死ぬところ……?」
「そうよ。ヴァンパイアが血を吸わないで生きていけるわけがないのに……人間なんかに妙な関わりを持ったばっかりに……。……だから、私が血を飲ませてあげたんだわ……」
「血を……? 飲ませた……?」
あの時の光景がよみがえる。女の姿に驚いていたラズル、女の口から流れていた血、あれは、ラズルが女の血を吸っていたのではなくて……。
「……あなたが、連続殺人の犯人だったのね……」
「そうよ…」
女の口元に牙が光った。
「ブルーアイズに血をあげるため……彼が死ななかったのは、私がああして血を飲ませてあげていたから……」
犯人はラズルじゃなかった……、よかった……。
「あなたも目障りだから、ブルーアイズの餌食にしてあげるわ……本望に思いなさい」
女が血のように赤い翼をたたみ、窓から部屋の中へと入ってくる。ベッドに座り込んだまま、近づいてくる女を目で追っていた。
「逃げないのね……」
女の顔が迫ってくる。
不思議と逃げようという気は起こらなかった。
「……ならば、一思いに!」
首筋に女の鋭い牙があたった。
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