―3―

ラズルとは、それからよく会うようになった。城へ行っては、いろいろな話をした。そしてその度にいつも、訪れた私をもてなすために彼が出してくれたのは赤ワインだった。 何度めかに城を訪れた時、ふと会話が途切れてそのわけを聞いてみた。

 するとラズルは、「笑わないか…?」と、照れたように前置きをした。

「おまえと出会ってから、私は血を吸わないようにしている……そう誓ったのだ。だがのどがひりついてしようがない時があって、そういう時この赤ワインを口にするようにしている……これを飲めばとりあえずのどの渇きはいやせる……それに、血の色にも似ているからな…」

「血の色……」

思わずグラスの中を透かし見た。

「恐れずとも、血などは混じっていない」

 言って笑うラズルに、つい気になってたずねる。

「でも…ラズル、そうしなくても大丈夫なの? ……ワインだけで、体がもつの……?」

ラズルがワイングラスを取り上げ、赤い液体を一口飲み込む。

「さぁ、わからない……こんなもので生きていられるのかどうか……だが、私は血を求めないと誓ったのだ……。……たとえそれで死ぬことになっても、私はかまわない……」

「そんな…ラズル…」

「……おまえのためだ、ルキア……」

「えっ…」

 ラズルの手が頬に触れる。

「……おまえの前では、私は、ヴァンパイアではいたくない……」

 ラズルの唇がそっと重ねられた。でもすぐに唇を離してしまう。

「……口づけると、おまえを、傷つけてしまう……」

 牙があたった唇の端から血がにじむ。血をぬぐわずにそのまま口づけを返す。

「いいの…もっと、キスを……」

 ラズルが唇についた私の血を舌で舐める。

「おまえの血は、甘い気がする…」

「ラズル…本当に大丈夫なの…? もし大丈夫でないなら、私の血を吸っても……」

「いや、気にするな…。つまらないことを口にして、すまない…。私はもう、誰の血も求めることはない……さっきも言ったように、それで死ぬことがあってもかまわないのだ……」

「だけど…」と、口をはさみかけるのを、ラズルが「いや…」と、止めた。

「いや…これでいい…私はもう、永く生きすぎた……永い時をこの城で過ごしてきて、街も様変わりしてきた……なのに、私だけが変わらない……。……私だけが、まるで時に取り残されたかのように……だから血を吸わないことで、永遠の生から解放されるのならそれもいい……。それに……おまえと生を共有できるのなら、同じ時を過ごしていくことができるのなら、私はそれを幸せに思う……」

「ラズル……」

 ラズルの指が、私の手に絡められる。

「ルキア、私がたとえ朽ち果てることになっても、私とともにいてくれるか…?」

 絡んだラズルの指先を握りしめ、うなづいた。

「そうか…ルキア、私は、おまえを……愛している」

 「…私も、あなたを……愛しているわ、ラズル」

ラズルへの愛は会う度につのっていった。

ラズルは私の前ではヴァンパイアであるということを微塵も匂わせなかったし、血を吸うような素振りさえ見せなかった。それで何度も会ううち、私自身ラズルが人間ではないということを忘れかけていた……。

 ……でも、事件は唐突に起こった。

 

  

 

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