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「ファントム…!」

窓から身を乗り出したレッドウィングスの目に雪の中に倒れた2人の姿が映る。

と、先に体を起こしたファントムがぶるりと全身から震えを放った。

「まさか…」

と、レッドウィングスが空を仰ぐと、いつの間にか雪はやみ月が現われていた。

「ファントム……あなた、わかっていて……!」

窓辺のレッドウィングスにファントムはにやりと笑うと、満月に向かい両手を広げた。

降り注ぐ月光にファントムの体が銀色に発光し、みるみる姿を変える。鼻先がとがり2つの耳が立ち上がり、体を銀色の毛並みが覆う。ふさふさとした太いしっぽが生えると、しなやかな獣の足を雪の上につき、「うぉぉぉぉぉぉー……」と、遠吠えを放った。

「……ファントム・ウルフ! ……やめて!」

獣と化したファントム・ウルフの耳にはレッドウィングスの声など届くはずもなかった。

ファントム・ウルフは前足で雪を蹴ると、ブルーアイズの体に躍りかかった。

「くっ…!」

手をついて体を起こしたブルーアイズの肩に鋭い狼の牙が食い込む。

「ファント…ム…ウルフ…そんなに、私が憎いか…」

答える代わりに、ファントム・ウルフは「うぉー…」と、またも吠え声をあげた。

「ならば…噛み殺すがいい…」

ファントム・ウルフの口の中にブルーアイズがぐっと噛まれている肩を押し込む。

肉が裂けて血が流れ、雪の上に血だまりをつくる。

「やめて! ファントム! ブルーアイズから離れて!」

レッドウィングスが飛んできて、ファントム・ウルフを引き離そうと必死になる。

だが離そうとすればするほど牙は深く食い込んで出血の量は増し、噛みついているファントム・ウルフの口までもが赤い血に染まった。

「いやーーーーー」

叫び声をあげ、雪の中にレッドウィングスがくずおれるよう座り込むと、ファントム・ウルフはようやく牙を引き抜いた。

肩から血が噴き出しブルーアイズがあお向けにどっと倒れる。

「……これぐらいでは、済まされない……」

月が雲に隠れヒトの姿に戻ったファントム・ウルフが口のまわりについた血をぬぐいながら言う。

「ファントム……ひどいわ」

「…かばってやることなどない…」

と、ファントム・ウルフが吐き捨てる。

「そいつは……見るものを惑わせる……傷つけてやりたいと、殺してやりたいと……」

「今度こんなことをしたら、あなたとのつき合いも考えるわ…」

言うレッドウィングスをファントム・ウルフは力まかせに腕に引き寄せると口づけた。

「……ブルーアイズなどやめて、俺のものになれ。そいつは愛情が薄い……何を背負っているかは知らないが」

「いや…もう帰って。ブルーアイズの手当てをしないと…」

レッドウィングスがファントム・ウルフから身をかわし、横たわるブルーアイズを抱き起こす。

「…これからも、そいつは言われのない傷をいくつも受けるはずだ…その度に、おまえがそうやってぬぐってやるのか…」

答えずにブルーアイズを抱いてレッドウィングスが飛び立ちかける。

「悲しい恋だな…」

手を引いて言ったファントム・ウルフに、

「それでも、愛してるの…」

レッドウィングスは応えて、腕を振りほどいた。

 

「俺の勝算はなしか…だが」

と、ファントム・ウルフは言葉を切った。

白い満月がまた空に現われようとしていた。

「俺は、あきらめない……奴よりも俺の方がおまえを愛していると、いつか思い知らせてやる……」

月に照らされ銀狼に変わったファントム・ウルフは一度だけあいているレッドウィングスの窓辺を振り返ると、雪原を毛並みをたなびかせて駆けていった。

白い処女雪の上を点々と狼の足跡がつなぎ、遥か遠くから低く地を這うような吠え声が響いた……。

 

 

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