ブルーヴァンパイアX 「響き合う、金と銀の協奏曲」

―1―

雷鳴が轟いている。青い稲光が窓の外を斜めに走る。

「雨が、降るのか…」

 体が、だるく重い。雨の日は、特にのどが渇く。湿気は館に巣食うねずみを捕らえてまでも血をすすりたいと思わせ、私を卑しいけだものへと変貌させる。

 だから、雨の日は嫌い。

 私には、まだヒトへの憧れがある。もうヴァンパイアになって長い時がたつのに、私はまだ自らの身分を受け入れ切れずにいる。

 ぼたぼたと館の屋根をたたく雨音が響く。

外は、豪雨になったらしい。

「こんな日は、何かよくないことが起きる気がする……」

 ラズルを真似て、赤ワインを飲むことにする。窓ガラスをつたう雨をながめながら、ワイングラスを口へ運ぶ。

「こんな気もちは、いや……」

 やるせない、虚ろな気もちが襲う。ラズルも、かつてあの城でこんな気もちを抱いて過ごしていたんだろうか……。

 淋しすぎる……こんなのは、耐えられるはずがない……。ヴァンパイアになってみて、初めて彼の気もちがわかった……あの頃、まだ人間だった私と、彼はどんな思いで接していたんだろう……。好奇心ばかりで、ラズルの立場など思いやってあげることなど少しもなかったろう私に、彼は一体どんな気もちで……考えただけで、胸が痛む。

「あの頃、私はただの好奇心が旺盛なだけの少女で、恐いものなんてなんにもないと思っていた……」

 まぶたを閉じると、光の中にいた自分の姿が浮かび上がる。

 

 

 ガタン……。

 ふいにどこからか音がして、はっと目をあける。

「誰か、いるの……」

 グラスを窓辺に置き、あけ放たれた寝室の扉の向こうに目をこらす。

 何も物音はしない。

「気の、せい……?」

 寝室から首を伸ばして廊下をのぞく。闇に包まれた廊下には、誰の姿も見えない。

 と……、

「こっちだ……」

 突然、声が背後から聞こえた。

「えっ…」

 あわてて振り向く。が、誰もいない。

「誰なの? いるなら、姿を見せて…」

 寝室の隅々に目を走らせる。その姿を嘲笑うように、「どこを見ている、ここだ」声はまた背中から――廊下側から聞こえてきた。 とっさに振り返った私の目に、今度こそそれは見えた。

 金色のたなびくたてがみを持つ、魔獣――赤い目の玉がたてがみの間から爛々と輝いている。

「誰……」

「ごあいさつだな……初めて会った者には、『はじめまして』とでも言うものだ」

「茶化さないで……誰なの? サタンの差し金で、また私を殺しに来たの?」

「ふっ…」

 金色の魔獣が笑いをもらす。全身が金色の長い毛に覆われ背中の丸く折れ曲がった体躯はそれだけで獣然としているのに、不思議にどこか気品のようなものがうかがえる。

「そのとおりだ。私は、猊下におまえの抹殺を命じられて来た」

「……なら、殺せばいい。私は、私を殺してくれる人を待っていたんだもの……」

 金色の手の指から、鉤状の長く鋭い爪が伸びている。

 

 

 

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