―5―
「もう一度……会えてよかった……ルキア…」
……私を呼ぶ声……この声は、ラズル……
「ラズル……?」
呟いてみる。だけど、これはきっと夢……。
……私は、ラズルに会いたいと願うあまり、死ぬ前に都合のいい夢を見ているのにちがいない……。
「そうだ、ルキア。おまえを、死なせはしない」
「ううん、ラズル…もう、いいの…ありがとう…。あなたに、もう一度会えて…よかっ…た……」
夢なら、どうか、覚めないで……だって、最期の時まで、ラズルといっしょにいたい……。
「だめだ、ルキア! 死んではならない。今度は、私がおまえを救ってやる。だから、ルキア、目をあけてほしい。…私は、おまえに、死んでほしくはない…」
「私を…救って…くれるの…?」
「そうだ、ルキア。さぁ、顔をあげて」
彼の指が私のあごにかかり口づけられると、やがてその唇から、何かがどくどくと注ぎ込まれてきた。
「あっ…血が……」
「そう、血だ……。私の血が体の中に入れば、ヴァンパイアとしてのおまえの血は濃くなる……。そうすれば、おまえが死ぬことはない……」
「死なない…の…?」
「ああ、ルキア。おまえは、死なない」
のどを通り体をめぐる血が心地いい……まるで、夢のように……夢……死の間際に、夢をただひとつだけ叶えてくれたのかもしれない……体を覆うようなけだるい眠気に、まぶたが自然におりる……たとえ夢だとしても、ラズルにもう一度会えたから……私、死んでも、いい……まぶたは閉じ、意識は途切れた……。
目をあけると、私の体は見慣れた館のベッドの上にあった。
「私……生きて……」
体を起きあがらせようとして、枕の下からわずかにのぞいていた紙片に気づいた。
ルキア
またいずれ、
どこかで、
逢おう
文末には、なんの署名もなかったが、羽ペンで書かれたらしい細い文字は、ラズルが残したものにちがいなかった。
なら、あれは現実だったの……?
ベッドをおり、窓辺へ寄ると、紅い星が瞬いていた。
『紅い星が輝きを放つ夜は、必ず何か悪いことが起きると言われている』
レッドウィングスがそう話していた紅い凶星……。
私が生き永らえたことを知れば、グレイは、今度こそとどめを刺そうと襲ってくるにちがいない……レッドウィングスだって、邪魔者は消そうと躍起になるだろう……それに、魔界を統べるというサタンも、異端者である私を抹殺しようとどんな手を打ってくるか……紅い星の煌きは、それらの凶事の予告めいているようにも思えた。
軽い眩暈がする。鈍い頭痛がし、吐き気もかすかにするようだった。
きっと、純粋なヴァンパイアの血統だという混じりけのない彼の血を、多量にそれも急激に取り込みすぎたせいで、私の体が拒否反応を起こしているのにちがいなかった。
ベッドに戻り、再び眠りにつこうとして、傍らにあった紙片をそっと握りしめる。
今は、何も考えたくはなかった……グレイのことも、レッドウィングスのことも、魔王サタンのことであろうと……。
今はただ、何も考えずに、ラズル、彼だけのことを夢見て……私は、まぶたを閉じた。
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