ブルーヴァンパイア]W「主の御名を讃える歌を謳え」
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白くまばゆい程の光が降り注ぐ書庫で、分厚い書物をひらき熱心に読みふけっている者がいた。
「……何を、お読みかしら?」
声の持ち主は書物に夢中になっている長身の男に近づき、日に透けて輝く白金の髪にさらりと触れた。
男がびくりと驚いて、「何をするっ…」と、顔を上げる。
「お気づきになられないから……いつ見ても、触りたくなる程に美しい髪ですわね……ルシフェル様、ふふっ…」
今にも口づけでもしそうなくらいに顔を寄せて言う相手に、「……邪魔をしないでもらおうか? ベリアル」と、ルシフェルはいぶかしげに眉をひそめて応えた。
「素っ気ないおこたえですのね? ルシフェル様のお耳に入れたいことがあって参りましたのに」
それが体臭なのかベリアルから香る甘い匂いに、ルシフェルは嫌悪感も露に座っている椅子を後ろへずらすと、「おまえの話など、聞くだけ時の無駄だ…」と、言い捨ててまた書物へ目を戻した。
「では、ルシフェル様……勝手に話させていただきますので」と、ベリアルが隣の席に座り足を組む。
組まれた足からまとっている薄布がすべり落ち、太腿がのぞく――その美貌で何人もの天使を落としたとされ、「背徳の天使」とまで言われているベリアルは、挑発に見向きもしないルシフェルに、きつく化粧をした女顔に逆に微笑を浮かべると話を切り出した。
「ルシフェル様……こんなお話はご存知かしら? ルシフェル様がミカエル様と双子のご兄弟だというお噂……」
「…なんだとっ! 私とミカエルがどうしてきょ…」
書庫に響き渡る程の大声をあげかけたルシフェルの口を、ベリアルが手をあててふさぎ、「……そのように大きな声では、ここにいらっしゃる方全員に聞こえてしまいますわ」と、耳打ちをする。
自分に向けられた周りの視線に気づき、ルシフェルが耳を赤くしてベリアルの手をはずし、「……なぜ、そのような戯言を言う……」と、声をひそめて言い返す。
「戯言かどうかは、こちらをお読みになられてから言われてはいかがかと……」
ベリアルが言い、ルシフェルの読んでいた書物に手をかける。
「これに何が書いてあると言うのだ……」
戸惑うルシフェルに、ベリアルは数百ページにも及ぶ中身からとある一節をひらき指し示した。
「さぁ、こちらをご覧ください」
促されてルシフェルがその箇所に目を落とす。
『――神が混沌の闇に「光あれ」と命じられた時より、世界は永遠についえることのない相反するものの存在に責め苛まれている。それは元はひとつであった世界に、神が光を与え分かちたことによる永劫の宿業――神自らが下した命により、この世界は拭い去ることのできない罪を背負い続ける。生きとし生けるもの全ては罪深く、神が御身に負われた罪からは逃れられない。神の側近く仕える天使すらも魂の穢れは消えることなく、創世の昔より生まれ出づる神の業を負いし双つの魂は、例え愛し合おうとも互いを受け容れることも叶わず、いずれは宿命の輪の中に取り込まれ、罪の意識に悲鳴をあげる世界の贄として捧げられる――』
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