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ルキアが、オズマの首筋に牙を立てた。
「…うぅっ…く…」
うめき声をあげるオズマをグレイはじっと見つめると、
「もういい。こいつらを、夢から覚ませ!」
と、告げた。
「はい」と、うなづくインキュバスの声とともに、2人の意識が現実に引き戻される。
首筋につき刺さる痛みにオズマがまぶたをひらくが、吸血行為に没頭しているらしいルキアは、陶酔したように目を閉じたままだった。
「ルキ…ア…」
オズマが、目を覚まさせてやろうとして呼びかける。
それを遮るように、グレイが口をひらく。
「ルキア…おまえがそいつを殺せば、ブルーアイズも浮かばれるかもしれないな…」
ルキアが、その名にびくりと反応する。
「ルキア…」
もう一度力なく呼びかけたオズマに、ルキアは目を見ひらいた。
「オズ…マ? わた…し…」
夢から解かれたルキアが唇を離すと、オズマは、「よか…った…」と微笑んで、寝台に倒れ込んだ。
「え…オズマ? どうして…よかったって、何が…」
倒れたオズマの首筋に牙のあとを見つけたルキアが、思わず口に手をやる。
その手をふとながめた時、
「きゃあぁーー!」
と、ルキアは悲鳴をあげた。
自分の手に付いた、血。倒れた、オズマ。疑いようがない。自分が、彼の血を吸ったのにちがいなかった。
「ルキア…俺に吸われた血が、補給できてよかったな?」
笑いを含んだグレイの声が聞こえて、ルキアはキッと振り返った。
「…あなたが! あなたが、こんなことを…!」
叫ぶルキアに、グレイはチッチッ…と指を振った。
「俺のせいにして、言い逃れをするつもりか?」
「言い逃れ……?」
「そうだろう?」
と、グレイがわざとらしく語尾を上げる。
「……おまえがそいつの血を吸ったのは、真実だ。言い逃れをしているひまがあったら、そいつの蘇生でもしてやった方がいい……病み上がりで血を吸われては、今度こそブルーアイズのようにそいつも……」
「よして……!」
声をあげるルキアに、くくっ…とグレイは笑いを浮かべた。
「助けられるものなら、助けてやるがいい……そいつは、さんざ悪夢を見せられ、挙句、最後の頼みの綱のおまえにまでそんな仕打ちを受けて、ずたずたのはずだ……もう、生きる気力すらも残ってないかもしれないぜ?」
「…グレイっ!!」
声を張り上げたルキアに、ふっくくくく…とグレイは笑い声を浴びせると、
「次は、貴様をくびり殺してやる…」
と言い残して、窓辺から飛び去った。
ひとりになると、ルキアはオズマの体をそっと抱き起こした。
「…オズマ…ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…」
泣きながらあやまるルキアに、
「ルキア…」
と、わずかにオズマが目をあけた。
「オズマ…私、私…こんなことをするなんて…」
涙声で言うルキアに、「いい…」と、オズマが首を横に振る。
「いいんだ…ルキア…。…私は、伯爵を、殺してしまった…その報いを受けるべきだ…。すまない…ルキア…おまえの愛する伯爵を……私は……」
「…ちがう! オズマ…! 私は、ラズルよりも、あなたを……!」
語尾がかぶさるように告げたルキアの言葉が、再び気を失い首をうなだれたオズマに届いたとは思えなかった。
「……愛していたラズルを手にかけた、そのオズマを愛しているだなんて……私は、なんて罪が深いのか……だけど、初めてあなたに会った時から、私は……」
ルキアがオズマを抱きしめて、深い口づけを贈った。
「そう…か。ふっ…この先、まだまだ楽しめそうだな…」
帰るふりをして物陰からのぞき見ていたグレイが、そう口にして、ひそかに笑った……。
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