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「……見て、いられなかった……何度も死にかけるあの人の姿を……誰かのためにすぐに命を賭けてしまうようなあの人を……。だからルキアをあの場所につれ出したのは、ひとつは……戒めのため……」

「戒め…?」

聞くグレイに、レッドウィングスが「そう…」と、うなづく。

「あの子にわかってほしかった……彼が、どれだけ苦しんでいるかを……。あの子を生かしてしまったことさえ、本当はあの人には重荷だったろうことを……」

「だから、見せたのか……奴の死を、わざと……」

「わざと…そうね…結果的に、そうなってしまった…」

力なくくず折れそうになるレッドウィングスの体をグレイの太い腕が抱きとめる。

「……よかったのか? おまえは、それで……」

腰をきつく抱き、耳元近くでグレイが言う。

「……いいわけがないよな……そんなことをしたって、おまえには何も残らない。あんな小娘に、戒めをくれてやって……それでおまえは、どうするつもりだったんだ……」

「そんなこと聞かないで…泣きたくなるじゃない…」

潤んだレッドウィングスの瞳を捉え、

「なら、泣けばいい……」

と、グレイが口にした。

「……今日だけは……俺が、受け止めてやる」

グレイがいつにない包み込むような、やわらかな眼差しをする。

「グレイ……私……」

「いい…思いっきり、泣け…」

グレイがレッドウィングスをぎゅっと胸に抱くと、彼女は堰を切ったように肩を震わせて泣いた。

やがて彼女が顔を上げると、その涙に濡れた頬にグレイは口づけて、

「……仇は、俺が取る……」

と、言った。

「仇って……」

「約束をしたんだ、ある方と……奴の仇は、取ると……」

「グレイ……ひとつ、聞いていい?」

レッドウィングスに問われ、「なんだ…」と、グレイが聞き返す。

「……あなたは、愛していたの? ブルーアイズを……」

「俺が…? 俺は奴を憎んでいるだけだ…永遠にな」

 

 

「死んでも……?」

と、レッドウィングスがたずねる。

「死んでもだ……」

と、グレイが応える。

「俺は、奴を憎んでいる……。深く、奴を……だから、俺の殺すはずだった奴の命を横から奪ったオズマとかいう奴を……俺は、許さない……俺は、どうでも仇は、取る……」

レッドウィングスが泣いていた顔に、くすりと微笑みを浮かべる。

「……究極の、愛情みたいね……」

「究極の……くそっ、形無しだな…この俺も。…もう、帰るぞ!」

「ええ…今日は、ありがと…」

「ああ…」

と、窓辺に翼をひらいたグレイが、ふと「なぁ…」と、振り返る。

「おまえは、この先どうする…?」

「私? そうね…かたづけでもするわ。思い出のあとかたづけ…いろいろとあるもの、かたづけるもの…」

と、レッドウィングスはベッドサイドにあるテーブルの上の魔術書を見た。

「そうか…それも奴の忘れものなのか?」

「そう…忘れっぽいとこあるのよね、けっこう。興味があるとか言って、けっきょく途中までしか…」

再び涙のにじんだレッドウィングスの腕を引き、グレイは唇を寄せた。

「……血を、くれたの?」

「ああ…まぁ、奴の血ほど濃くはないがな…」

ふと笑ったグレイに、つられるようにレッドウィングスが微笑む。

 

夜空には蒼い月が魂の焔のように灯っている。

それは、ブルーアイズの魂のような……あまりに儚い、蒼。

切ないくらいにやさしく、遺したものたちさえ包み込む……、

それは……哀しいまでに、蒼すぎる、蒼……。

 

  

 

 

 

 

 

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