ブルーヴァンパイア寓話W「ガラス玉の弾いたメロディー」
「ねぇ、ブルーアイズ…何を、見ているの?」
「月を…」
「月?」
「ああ…」と、ブルーアイズがなにげない仕草でレッドウィングスを傍らに抱き寄せる。
「ほら…綺麗な月が出ている…」
抱き寄せられた肩がじん…と熱くなる。
「うん…本当に、綺麗…」
呟くブルーアイズの瞳の中にきらきらと蒼い月が映り込んでいる。
「……なんだか、胸が痛くなるような美しさ」
「……なぜ、泣く?」
頬に手をあてられて、レッドウィングスが無意識にこぼれ落ちた涙に気づく。
「あ…ごめんなさい…わからない…」
手の平でこぼれた涙をふきながら、「あんまり綺麗だったから…だから…」と、レッドウィングスは言った。
「そう…か」と、ブルーアイズが微笑みをつくる。
「何か哀しいことでも、思い出したのかと思ったが……」
「ううん…」と、レッドウィングスは首を横に振る。
(思い出したんじゃない……)と、心の中で思う。あまりにも鮮烈に美しく蒼い月に、ブルーアイズの哀しい運命を重ねて見てしまったような気がしていた。
「……どこにも、行かないよね……」
不安に駆られてレッドウィングスがたずねる。
「…どこにも? なぜ、そんなことを聞く? 私は、ここにいるのに…」
「うん…」
うなづいて、笑おうとする。
月にだぶって見えたのは、予感なんかじゃない……きっと、ただの気のせい……月が、あんまり綺麗だったから、そんなイメージがわいただけ。
「……ブルーアイズ。いつもいっしょにいてなんて、言わない……だけど、自分を大切にしていて……」
「ああ…無茶な真似はしないようにする…」
「ブルーアイズ……」
言葉にならない。月は、蒼くて、どうしてあんなに綺麗なんだろう。胸を締めつける程の美しさは、切ないまでの哀しみを呼び起こす。
「ブルーアイズ……」
この予感は、嘘ではないと……どこかで、警鐘が鳴っている。
「どうした……おまえに泣かれると、私はどうしていいかわからなくなる……」
やさしく抱きしめてくれるブルーアイズに、よけいに涙は止まらなくなる。
「なんでもない……泣いてなんかいない……」
泣きながら、レッドウィングスはブルーアイズに告げた。
あの時、すごく困った顔をしていたっけ……。
そう、あの時……彼が死んだのは、それから間もなくだった。
「ブルーアイズ……嘘つきね、あなたは」
レッドウィングスは呟いて、あの時と同じ蒼い月を眺めた……。
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