ブルーヴァンパイア寓話X「風が運んだフレーズ」

 

 どうして、あんなことを言ったんだろう……。

彼がいなくなった途端に、後悔している自分がいる。今さらこんなこと思ったって、この思いはラズルにも、ましてオズマにも届かないのに……自分のわがままさに、嫌気がさす。

「きっと、今ごろ…ラズルは、あの人のところへ向かって……」

そう呟いた矢先、窓辺に羽音がして、レッドウィングスが窓辺に降り立った。

「……なんで、レッドウィングス……?」

(ラズルが、あなたのところに向かっているのに……)と、やっかみ混じりに思う。

「……あなたが、どうしているのかと思って……」

「そう…でも、気にしないで。私は大丈夫だから……」

なんて言ったらいいのかわからない。自分からラズルを彼女に譲ったのに、悔しさの方が先に立っている。

「ねぇ…ブルーアイズは、もうここに会いに来た?」

「来たわ…」と、うなづく。「ちょうどさっき…」と、レッドウィングスの顔を少し挑発的に見上げる。

「そう…来たのね……」

レッドウィングスは呟いて、それから見上げている私の顔にふいに笑顔を向けると、こう言った。

「…よかった…」

「よかった…?」

思わず、聞き返す。

「ええ……彼が、あなたに会いにきてくれて……よかったって」

「どうして?」

私は、小さい声で言う。

「えっ…?」

「どうしてよ…? どうしてそんな風に、他人の幸せなんか望めるの? おかしい…おかしい、そんなの!」

涙があふれてくる。悔しくて、たまらなかった。挑発なんか、無意味だったことを思い知らされる。

「ルキア……」と、彼女が私の髪に触れる。

「ちがうわ……私は、他人の幸せを望んでるわけなんかじゃない……」

「つくろうことなんてないじゃない……!」

髪をなでてくれようとするレッドウィングスの手を振り払って、私は背中を向けた。

「ちがうの…ほんとに」と、彼女が私の背中越しに言う。

「私は、ただ、あの人の幸せを願いたいだけ……。ただのエゴイストなだけよ……」

返す言葉もなくて、床に座り込む。

私は肩を震わせて泣きながら、自分の惨めさを知った。

「もう帰るね、ルキア…」と、レッドウィングスが言う。「また、来るから…」と、彼女が言う。

「いい…もう、来ないで…」

私には、それだけ言うのがせいいっぱいだった。

風が、ばたばたと窓を揺らしている。

「私は……そんな風に純粋に彼を愛することなんかできない……」

泣き疲れて空を見上げると、自分がヴァンパイアの証である鋭くとがった牙が、暗闇の中に光ったのがわかった……。

 

 

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